使い方を誤ると悪影響が生じます
前回の記事「任意のホームインスペクション(住宅診断)は必要か①」の続きとして、ホームインスペクションを行う上で、知っておくべき大切なポイントについて触れます。
・ホームインスペクション業者と建築請負業者とは、基本的に敵対関係にある。
→ まずは前提となることですが、施主がホームインスペクションを行うということは、施主が建築請負業者に対して「あなた方のことは信用できませんので、監視させていただきますよ。」という主張をすることとほぼ同意です。基本的に建築請負業者は、自分たちのペースで自分たちの好きなようにやれることを前提に工事日程を組むはずです。もしも建築の最初からインスペクションを導入したい場合には、建築請負契約を交わす前に交渉する方が良いでしょう。請負業者からすれば、通常は断りたいはずです。工事日程が延びれば職人などの確保、人件費の問題が生じるからです。それでも契約前であれば、仕事の受注を取りたいはずなので、しぶしぶ受け入れる可能性は高いです。優良企業であればすんなり受け入れるのかもしれません。ただ、もしも契約後に交渉したとすると、工期が長くなるなどの理由をつけて断られるか、施主と請負業者との関係がいまいち悪くなってしまう可能性があります。
仮に竣工時の施主検査のみで導入したとしても、ホームインスペクション業者は、ある意味、建築請負業者のあらを探すのが仕事です。当日のインスペクションで問題指摘レポートを行っている最中は、ホームインスペクション業者 VS 建築請負業者で、かなり微妙な(険悪な)雰囲気で話し合いがもたれます。
私の経験から、この時の施主の立ち位置はなかなか難しいものがあります。もともと建築請負業者に不信感を持っている状態での施主検査だったものの、重大な欠陥が見つかる前だったため、完全に仲違いしているわけではありませんでした。そのため、どちらの業者も「うちの話を信用してくれますよね?」的な視線を私に送ってきます。正直、話し合いの内容が建築の専門的な知識を要するものが多いので、すぐにどちらが正しいか私には判断が付きませんでした。判断に迷うものについては即答せずに、一旦指摘内容を預かって、後日返答するようにその場を収めることも必要かもしれません。
・ホームインスペクションの精度は派遣される担当者の技量に依存する。
→ インスペクションをする人(インスペクター)は一級または二級建築士の方がほとんどだと思います。ただし、案件ごとのスケジュールによって、派遣される建築士が異なります。ベテランもいれば、そうでない方もいます。要は当たり外れがあるので、もし指名して依頼する場合には、可能な限り担当者のバックグラウンドを調べておくことをお勧めします。口コミ等はもちろんですが、普段はどういった建築物を作っているのかなども、担当者の説得力につながるのではないでしょうか。
・ホームインスペクション業者は責任は取らない。
→ おそらく、これが最も重要なポイントなのですが、あれこれと専門知識で問題指摘をレポートしてくれるインスペクターですが、契約上、一切責任は取らない立場で意見を言います。明らかな問題点であればよいのですが、どんな分野にも、専門家同士でさえ意見が分かれるような問題があると思います。見解の相違というやつです。請負業者からすれば「インスペクターは自分でこの家を建てたわけでもないのに、教科書に載るようなド正論ばかりで、重箱の隅をつつくようなことばかりを主張している。そんならお前が建ててみろよ。」と言いたくなるようです。請負業者が現場の厳しい状況に合わせて、その時点のベストの判断で行った施工が、仮に教科書的に間違っていても、完全に悪とまでは言い切れないですよね。もしもインスペクターが主張するやり方で施工し直して、新たに問題が生じても、立場上インスペクターは責任を取りませんし、もちろん請負業者も言われてやっただけなので、あとから文句を言われても困りますよね。結局、どちらの意見を採用するかは施主の判断になるため、施主自身が最低限の知識を持っていないと、ホームインスペクションが悪影響を及ぼすこともあるわけです。
ホームインスペクションは不動産や建築の専門家ではない施主にとって、とても強い武器だと思います。ただし、使い方を誤ると、うまく活用できないどころか、悪影響を及ぼします。私は是非導入をお勧めしますが、すべておんぶに抱っこというわけにはいきません。施主自らがリアルタイムで学ぶ姿勢が不可欠だと思います。